旅とカメラとオートバイと

旅の悦楽

僕にとって旅とは悦楽だ。通信機器、移動手段が著しく発達した現代において、もう旅なんて呼び方は大げさなのかもしれない。それでも金泉寺や仁摩で出会ったおじさん達、長岳寺で僕の足元から離れようとしなかった野良猫、桜島フェリーの上で、少女と交わした視線。彼らと共有した時間は僕だけのものだ。もしかしたら誰が一度物語を完結させたのかもしれないその場所で、再び僕らが繰り広げるそれそのものが、僕にとっての「旅の悦楽」なのであります。

瀞ホテルに行ってきました。その1

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片道5時間かけて、一杯のアイスコーヒーを飲みにいってきた。
(本当は目的が違ったのだけど。)



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瀞ホテル   2017.7

瀞ホテルに行ってきました。その2

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十津川の瀞ホテルまでは、京都市内の自宅から約5時間くらい。
距離にして約200km。

日の短い冬場なら一泊していく行程だけど、夏場なら早起きすれば日帰りで行ける距離です。
前日は5時起きで出発しようと思っていたのですが、結局起きたのは7時前。いつもの出勤時間と変わらない時間に出発しました。

ルートは奈良県奈良市まで走って、そこから始まる国道169号線を和歌山県の新宮市方面へ向かって南下するだけ。紀伊半島の山岳部を貫く国道169号線は、整備が進んでいて、道幅も広く適度に道の駅もあって走りやすい道です。

この日は夏日でとても暑かったので、逃げるように道の駅に入り、珍しいラベルの缶コーヒーを買って日陰へ避難。
缶コーヒーを飲みながら空を仰いでいると、勇ましい排気音を響かせながら沢山のライダーが、道の駅の前を走り去っていきます。
これは僕も負けてはいられないと再び走り出しますが、背中に当たる日差しが暑くて暑くて・・・。

瀞ホテル付近で細かな支線がいくつか出てきて、地図を見ながらどれが瀞ホテルに行く道なのか悩まされました。というのは僕の持っている地図が古くて、道が変わっていた為でした。
少し前に仕方なく買ったスマホで、仕方なくグーグルマップを立ち上げ、仕方なく「瀞ホテル!」と話しかければ、そこまでのルートを示してくれました。

ツーリングなどではナビやスマホを使わない主義なのですが、いやぁ、今の世の中、ホントに便利になりましたね。



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瀞ホテルに行ってきました。その3

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自宅から、わざわざ200kmの行程を経てたどり着いたのがこの瀞ホテルです。
瀞ホテルは、三重、和歌山、奈良の三県にまたがる大渓谷「瀞峡」にあって、その断崖に建てられた瀞ホテルからの眺望は素晴らしいものです。
写真のごとく、食堂からの眺めは「目の前瀞峡どーん!」という感じで、瀞峡の巨岩が迫ってくる感じです。

瀞ホテルは大正時代に建てられた宿泊施設で、築100年以上の老舗旅館でした。
外観は純和風の木造建築で、レトロ感たっぷり。
また断崖絶壁と言う特性を巧みに生かした空間構成で、そこからの瀞峡の眺望は訪れた者をあっと驚かせる事請け合いです。

一度は廃業されたようですが、今は喫茶店として営業再開されています。
そこでの名物はハヤシライス。開店と同時に売り切れ必至と言うほどの美味しさらしいです。

何かの雑誌で瀞ホテルの存在を知った時から「レトロ感あふれる元旅館の食堂から、瀞峡の絶景を眺めながら、美味しいハヤシライス頂く・・・。」という計画を思いついていました。
こんな贅沢な食事があるでしょうか?
これはぜひ叶えてみたい内容だったのですが・・・。

開店は11:30。
僕が到着したのは12:00。
その時点でお店は満員、さらに4組のお客さんが空き待ち。

待っている間に「ハヤシライスは完売しました。」とのアナウンス。

仕方なく、あまり多くないメニューの中から、腹の足しになりそうなスフレを注文。
2つ頼んだのですが、それさえも「1つしか残っていません。」と非情なお断り・・・。

遠路はるばるやってきた身としては、とても残念でなりませんでした。



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瀞ホテルに行ってきました。その4

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瀞ホテルを後にして、次に向かったのは瀞ホテルと同じ十津川村にある玉置神社。

玉置神社は先の国道169号線から分岐する細い山道を延々と走った先にあります。標高1076mの玉置山のほぼ山頂に位置する本殿は欅材の入母屋造りで、長年の風雪に耐えたその貫録が訪れた者を圧倒します。

また本殿裏にある樹齢3000年ともいわれる神代杉もまた、力強いまでの太い幹と、天に向かってまっすぐ伸びる感じが美しく、見応えがあります。

とても素晴らしい神社でしたが、駐車場から本殿までは参道を徒歩20分ほどかけて歩かねばならず、ハヤシライスを食べ損ねた僕は、空腹と暑さで疲労困憊でした。

参拝を終えて駐車場に戻るとどうやら雲行きが怪しい。
一雨来そうな空模様でした。



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瀞ホテルに行ってきました。その5

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#4189

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#4191

雨が降っていないうちに少しでも距離を稼ぐ為、空腹を我慢しながら、必死にオートバイを走らせました。
が、走り出して30分もしないうちに雨粒がヘルメットのシールドに落ち、滲みのように広がり始めます。

機上から恨めしく空を見上げると進行方向は雨雲が切れていて、青空が垣間見れました。
「多分にわか雨だろう。」と、空を塞ぐように大きく伸びた木々の袂にオートバイを寄せて、雨をやり過ごします。

ヘルメットを脱いで、ライダースのポケットの中でぐちゃっと形の崩れた煙草を取り出し、火をつけました。
車通りの殆どない薄暗い峠道の中に煙草の紫煙が、うっすら浮かび上がりました。
それを見ながらぼんやりするのが僕の幸せな時間です。

この一本を吸う事で、ごちゃごちゃした頭の中を一旦リセットできて、次の事を考えられるようになります。
禁煙外来の先生には「それは錯覚です。」と散々言われましたが、いったん手を停めて、煙草を吸うと気怠くなって、ぼんやりその作業の行程を振り返ったり、次の行程について考える時間ができるのは、やはり煙草あっての事なのです。
煙草を吸う人は、それで1日のリズムを作っていると思います。

嫌煙ブームが広がり、何かと肩身の狭い思いをしながらも、「やはりこの1本は止められない。」
ずっとそう思ってきたのだけど、事情があって、泣く泣く禁煙せざるを得なくなりました。

翌日から禁煙外来に通う予定になっていたので、たぶんこれが最後になるだろうと、女々しくも写真に1枚撮りおさめる事にしました。

煙草を2本ほど吸っている間に、雨は止んで青空が広がり始めました。
自宅までの距離はまだまだありましたが、オートバイの付属している時計は16時を少し回っていました。

それを見ながら「うぉっし。」とひとり呟きながら、煙草の火を消して、オートバイに跨りました。



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