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テリトリー

#2118

小雨の降る中、田んぼのあぜ道を僕らは二人して傘をさして歩いた。
その日は湿度が高くて、気温は対して上がらないのに汗をかいたかのように僕らの体はじっとりしていた。そして昼も1時を回ったころだというのに厚くはった雲のせいで辺りは薄暗かった。

むしっとした重苦しい空気に支配された僕らは、殆ど言葉も交わさずに、ぬかるんだ地面に足を取られないよう注意しながら歩いた。
そうしていると、いつの間にか僕らの後をついてくる、小さな存在に気付いた。

小さな野良猫だった。

僕はひざを折ってその野良猫の頭を撫でた。撫で心地が良くないと感じるのは、雨に濡れているからだけではなく、その野良猫が痩せていて毛並みもよくないからだろう。だけど野良猫の方はのど元をグルグル鳴らして人懐っこさを見せた。
キミは肩にかけていた鞄から食べ物を物色したけれど、生憎、あげられるようなものは何もなくて、ほんとに申し訳なさそうな顔をしていた。

僕らは後ろ髪をひかれる思いでその場を後にしたのだけど、その野良猫は、僕らの歩調に合わせて後をついてくる。
立ち止まり、振り返ると、野良猫も立ち止まり、ゆっくりと足元にすり寄ってくる。で、歩き出すとまた、僕らの歩調に合わせて後をついてくる。

「どこまでついてくるかなぁ。」

僕らは期待半分、不安半分で歩き続けたけれど、最初の地点から1kmも歩かないうちに、その野良猫は足を停めて、その場から動かなくなった。

「やっぱり。」

本当は知っていた。野良猫には決められたテリトリーがあって、そこを超えて活動することはない事を。
その野良猫はテリトリーを、境界線を越えることができず、前足をそろえて腰を落とし、僕らの方を見ていた。

僕らも時々後ろを振り返り、次第に小さくなっていく野良猫の姿を見ていたが、何度目かで野良猫は姿を消した。
それ以降、僕らも後ろを振り返ることなく、また無言で歩き続けた。

その野良猫とのやり取りがあってから数か月後、ちょっとしたいざこざがあって、僕らは別れることになった。
もちろんその時は色々悩んだり悔んだりしたけれど、本当は知っていた。いずれは必ずこうなる事を。

わからないのはただ一つ。

何もできずにただ立ち尽くすだけの僕なのか。
それとも、それがわかっているから、別れを切り出したキミなのか。

あの時の野良猫は。


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