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旅とカメラとオートバイと

旅の悦楽

僕にとって旅とは悦楽だ。通信機器、移動手段が著しく発達した現代において、もう旅なんて呼び方は大げさなのかもしれない。それでも金泉寺や仁摩で出会ったおじさん達、長岳寺で僕の足元から離れようとしなかった野良猫、桜島フェリーの上で、少女と交わした視線。彼らと共有した時間は僕だけのものだ。もしかしたら誰が一度物語を完結させたのかもしれないその場所で、再び僕らが繰り広げるそれそのものが、僕にとっての「旅の悦楽」なのであります。

2008年、夏。雨の白馬にて。その2

Posted by yasu1995 on   0 comments   0 trackback

#4714

 予定していたキャンプ場は閉鎖されていて、素泊まりの予約も取れない。ずぶ濡れの体で、もはや走る気力も完全になくなっていた僕は途方に暮れ、公衆電話のまえでしばらくへたり込んでいた。
 どれくらいぼんやりしていたのかは覚えていないけれど、突然、「プシュー」という大きな音が聞こえて我に返った。気が付くと目の前にはバスが止まっていて、乗客が乗り降りしていた。そう、ここはバスの停車場だったのだ。そして乗客が出てきた待合室の存在に気づく。とにかくゆっくりと座りたかった僕はフラフラと待合室の方へと歩いて行った。雪国の待合室には雪風を凌ぐために立派な屋根のついた待合室も多い。幸い、四角い形の簡素なコンクリート造りではあったが、その中は4畳くらいの広さがあって、備え付けのベンチもある。作られて間もないのか壁や窓も綺麗、その上引き戸がついていた。そう、人が一人眠るには丁度良いスペースなのだ。

 「ここで一晩過ごせるんじゃないか・・・?」そう思いついたけれど、その頃の僕は、そういった事をしたことがなく、羞恥心から「バス停で眠る。」という行為にはかなりの抵抗があった。中々踏ん切りが付かずに、他にあれこれ思案したもののほかに打開策があるわけでもなく、時間は過ぎていって結局、そのバス停で一晩を明かすことになった。
 最終便が行くのを見届けてから、最小限の荷物をバス停に運び込み、床にマットをひいて寝た。用心の為、引き戸を閉め内側からカギをかけた。それでも夜中に聞こえる車の走行音や、目の前に設置された自販機でジュースを買う音で度々目が覚め、その度に「通報されるんじゃないか。」とドキドキしていた記憶がある。
 そこが白馬と言う土地柄だったせいか、昼間はあれほど暑かったのに夜は凍えるほどに寒かった。マットをひいていても無機質なコンクリートの床の冷たさが背中に嫌というほど伝わってきた。体は芯から疲れていたのに、ほとんど眠れないまま一夜を過ごした。そして始発のバスが来る心配をする必要がない程、早い時間にそのバス停を後にした。

 そんな大変だった経験程、濃く記憶に残っていて、今でも詳細に記述できる。その後も何度か同じ目に合っているのだけど、人間って本当によくできていて、こんな状況ですら慣れてしまえるのだ。
 あまり褒められたことではないのだけど、2.3年前には台風でテントが張れずに、またもバス停で一夜を明かした事がある。その時は既に民宿に避難と言う考えはなかった。真暗な雨雲が覆う日本海、その海辺の小さな、本当に小さな箱型の、窓枠があるのに窓がない、砂埃が床を覆うバス停。強い風に乗ってうなりと共に窓から激しく吹き込んでくる雨飛沫の中、濡れた床の上で合羽を着て、マットをひいて眠った。そんなより悲惨な状況でも、白馬のバス停で一夜を明かした時よりドキドキしなかったし、よく眠れた。

 旅に慣れてくると、色んな手段を講じるようになり、万策尽きれば開き直る。いい意味で図太くなる。ゲリラ豪雨、台風ですらやり過ごせるほどに。

 ただし、オートバイでのツーリングに目覚めた頃にあった毎度の、旅への思い入れ、ドキドキ感が薄れていくのは否めない事実だ。

 とても悲しいのだけれど。



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2016.5 戸隠

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