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なんとなく。

#5123

 まだ四月だというのに気温は昇り調子で、半そで一枚でもうっすら背中に汗をかくような昼下がり。煩雑に軒を連ねる繁華街の路地は店舗の形に添って路面に影が落ち、陽炎のように揺らめいていた。その殆どがまだ営業時間を迎えておらず、ひっそりと静まり返った飲み屋街を抜けて、一軒のラーメン屋に入る。初めて訪れた客ならきっと営業中なのかそうでないのかがわからず、二の足を踏む程に素っ気ないその店の、入り口直ぐ近くの、いつもの丸椅子に腰をおろす。客はまばらで、その殆どが時々見かけるサラリーマンか、近くの大学に通う学生だ。うす汚れた壁にあまり丁寧でない字で書かれたメニューは見るまでもなく、薄暗いカウンターの奥にいる初老の店主に向かってラーメンを注文。いつもの席の右隣には、少し強引に手を伸ばせば届く範囲に冷水機が置かれているので、席を立たずにそのまま備え付けのコップに水を汲むのが癖になっている。その日は暑かったからコップに水をなみなみ汲むと、一気に飲み干した。
 
 僕の注文を受けて麺をゆで始めた店主を見ながら、他に店員がいないのを確認する。この間、店主にこんこんと諭されていた若い男の店員が居ない。彼が泣きそうになりながら、力なくカラカラカラと、静かに入り口の引き扉を開け、そのまま店を出ていった後、一人の常連客が「あれは多分帰ってこんで。」と呟いた事を覚えている。店主は無言で扉の向こうを見つめていた。
 カラカラカラ・・・。曇ったガラスの引き扉は相変わらず貧乏くさい音を立てながら客を向かい入れる。振り返ると、外回りのサラリーマンが汗をかきながら入ってきた。その時、引き扉の向こうに青空が見えて、初めて晴天であったことに気づく。それがこんな薄暗い店内から見たからなのか、妙に鮮やかに映った。

 それを見て僕は「何処かに行きたいなぁ。」、何となく、そう思った。



RICOH GXR×Ai Nikkor35mmF1.4S

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