秋日和(4)
息苦しくなるような夏の暑さがいつの間にか去って、Tシャツの袖や裾をなびかせる風が冷たいと感じる頃、僕は久しぶりに旅に出た。
早朝に京都の自宅を出発し、ふにゃふにゃで底付きのするような頼りないカブのサスに揺られながら延々と走り続ける。目的地の伊勢まで片道150kmはあるだろうか。いつものオートバイなら2~3時間で走り切ってしまう距離でも、カブなら1日仕事だ。一昔前であればそんな距離をわざわざカブを選んで走るなど正気の沙汰ではなかったと思うのだが、最近はカブでのツーリングが流行っているのか、ロングを走るカブ主もよく見かける。キャンプ道具を積んだカブも珍しくなくなった。酔狂とされてきた僕の行為も世間に認知されたと思っていいのだろうか。
青く高い空、乾いた空気に乗って鼻孔をくすぐるのはたわわに実った、首を垂れる稲穂の匂い。黄金色の田畑とその畦道に咲く真っ赤な曼殊沙華。夕日に照らされて物憂げな表情を見せる秋桜。道程にある様々な景色を目で、耳で、鼻でしっかりと受け止めて味わうような、そんな丁寧な旅がしてみたかった。
それには一定の環境を保ちながら移動する自動車や、全てを後ろに置き去りして走るような排気量のあるオートバイよりも、ゆっくりとした速度域で走る、まるで散歩でもしているかのような気分になるカブがうってつけであり、それこそがカブツーリングの醍醐味だ。
OLYMPUS OM-D EM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mmF2.8 PRO